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名古屋地方裁判所 昭和51年(ワ)1179号 判決 1978年7月28日

原告

村田嘉朝

ほか一名

被告

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告らに対しそれぞれ金一五〇万円及びこれに対する昭和四三年四月二〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文と同旨

2  仮執行宣言を付する場合には、仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外村田邦明は昭和四三年四月二〇日午前零時頃名古屋市千種区内路上において何人か加害者不明の者の運転、保有する自動車により追突されて受傷し、これにより同日午前四時頃同区千種本町六丁目一九番地付近路上において死亡した。

2  ところで、訴外村田邦明は昭和一八年七月二八日生れの男子で本件事故当時二四歳であつたから、死亡事故がなければ、向後三九年は就労が可能であつたところ、当時名古屋市千種区青柳町所在の名古屋乳業販売合資会社に勤務し、昭和四三年一月から事故前日までの間に二一万九四八〇円(平均日額二〇一四円)の給料を受け、年間にして七三万五一一〇円の収入を得ていたから、生活費を年収の二分の一とみてこれを差引き、ホフマン方式により三九年の係数二一・三〇九を乗じて同訴外人の逸失利益の現価を算定すると、その額は七八三万二二二九円となり、同訴外人は同額の得べかりし利益を喪失した。

3  原告らは訴外亡村田邦明の両親であり、同訴外人の死亡により、相続人として同訴外人の地位を承継した。

4  本件事故によつて原告ら両名の受けた精神的苦痛に対する慰藉料としては、各自につき一五〇万円を下ることはない。

5  よつて、原告らは自動車損害賠償補償法(以下自賠法という)三条の規定により自動車の保有者に対し各金五四一万六一一四円の損害賠償請求権を有するところ、右保有者が明らかでないので、同法七二条一項前段の規定により被告に対し損害の填補としてそれぞれ金一五〇万円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和四三年四月二〇日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中訴外村田邦明が原告ら主張の日時、主張の場所で死亡したことは認めるが、その余は否認する。

2  同2の事実は知らない。

3  同3の事実につき、原告らが訴外村田邦明の両親であることは認める。

4  同4の事実は知らない。

三  抗弁

原告らは、訴外亡村田邦明が原告ら主張の自動車事故により死亡したとして、自賠法七二条の規定により、政府の保障事業業務委任会社である大東京火災海上保険株式会社を通じて損害の填補請求をした。しかるに、本件事故は同条一項前段の自動車による事故であると認めるに足る証拠がないところから、運輸大臣は昭和四五年五月一四日付をもつて、自動車損害保障事業からの損害の填補はしない旨を前記保険会社に通知し、同会社は同年七月六日原告らに対しその旨の通知をした。

しかして、右請求権は公法上の債権と解すべきところ、原告らの本件損害填補請求権は権利を行使しうべきときから既に二年を経過したから、時効により消滅した(自賠法七五条)。

四  抗弁に対する反論

自賠法七二条三項は、同条一項の請求の手続は運輸省令で定めると規定して権利行使の方法を特定しており、同法七五条の消滅時効に関する規定は原告らが同法七二条所定の手続により運輸大臣に対して損害填補請求の手続をしなかつた場合に適用されるのである。

しかして、原告らは訴外村田邦明死亡後二年内に同法七二条の規定に基づいて運輸大臣に対して所定の請求手続をとつたのであるから、同法七五条の消滅時効に関する規定の適用はない。しかも、原告の右請求に対し、運輸大臣は右訴外人の死亡は交通事故によるものではないとの判断のもとに原告らの請求を拒否した以上、原告らが再度同様の運輸省令で定める請求手続によることは無意味である。そして、一度省令に定める請求手続をとつたことにより時効が中断した以上、死亡原因が交通事故によるものか否かを唯一の争点とする拒否通知は中断事由の終了とはならず、仮にしからずとしても右争点をもつてする裁判上の請求については同法七五条の適用はない。

第三証拠〔略〕

理由

一  訴外村田邦明が原告ら主張の日時、主張の場所で死亡したこと、原告らが右訴外人の両親であることについては、当事者間に争いがなく、原告らが同訴外人の死亡により相続人として同訴外人の地位を承継したことは当事者間に明らかに争いがないので、被告においてこれを自白したものとみなすべきである。

二  ところで、本訴請求が自賠法七二条一項前段の規定に基づく損害填補請求であることは、原告らの主張自体に徴し明らかであるところ、被告は本訴請求は同法七五条の規定により二年の期間が経過し、消滅時効が完成した旨主張するので検討する。

原告らが自動車事故により訴外村田邦明が死亡したとして死亡後二年内に自動車損害賠償保障事業への損害填補請求を政府の保障事業業務委任会社である大東京火災海上保険株式会社を通じてしたこと、これに対し運輸大臣が右請求は自賠法七二条一項前段の規定に該当する本件事故が自動車による事故にあたると認めるにたる証拠がないとして昭和四五年五月一四日付をもつて、保険事業からの損害の填補はしない旨を右保険会社に通知し、同会社は同年七月六日原告らに対しその旨の通知をしたことは、当事者間に明らかに争いがなく、本件訴が提起せられたのが昭和五一年六月一七日であることは本件記録に徴し明らかである。

ところで、自賠法七二条一項に基づく請求権は自賠責保険による救済を受け得ない場合に、政府が政令で定める金額の限度において、その損害を填補して被害者の救済を図る趣旨のもとに定められたもので、私法上の損害賠償請求権とは性質の異る国に対する公法上の請求権と解すべきところ、これにつき原告らにおいて他に時効中断の措置がなされたことの主張立証のない本件においては、権利を行使しうるときから既に二年の期間が経過していることは明らかであつて、本件請求権は時効により消滅したものといわなければならない。

原告らは、自賠法七五条の消滅時効に関する規定は、運輸省令で定める請求手続による権利行使についてのものであることを前提に、二年以内に右請求手続をとつた以上時効が中断する旨主張し、被告の抗弁を争うけれども同条の規定を原告らの主張する如く解釈する根拠に乏しいので、原告らの右主張は採ることができない。

三  よつて原告らの本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白川芳澄)

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